まず初めに書道を始めたきっかけを教えてください。 妹が左利きを直そうと通うことになった書道教室に、私も一緒に付いて行ったんです。結局妹は馴染まなくて、左利きも直らず辞めてしまいましたが、私の方は字を書くことが面白くて。ちょうど6つになる前だったと思います。 書道教室では、他にどんなことをしていたのですか? 先生の家にある絵本の文字を、自分の好きな色の画用紙とペンで写したりもしました。お話の内容を読んで、何色の紙に何色のペンで書こうかなど、子供なりに色々と考えて書いていました。先生からは、「考えて書く」ということを教わったと思っています。 ユニークな指導をされる先生なのですね。 戦後の20年代に前衛書道という、抽象絵画を書いていた画家達と交流しながら、今までの書の伝統を崩せというアバンギャルド運動に感化された動きがあって。私の先生は、その先鋭的な活動をしていた作家の人達とも交流があったようです。ただ、結婚を機に作家活動を一切やめ、教育者でいることを選ばれたそうです。 書道教室という言葉のイメージが覆されますよね。 |
華雪さんが書によって、表現したい、伝えたいものは何ですか。 私は、字を書くことは声のような気がしていて。声や筆跡というものは、その人の何かを表しているものだと思うんです。 |
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実際に私の作品をご覧になって「この花の字を見ていたら、花の記憶を思い出した」「何か語られている気がする」と言ってくれる方たちがいて。そんなふうに、何かを語りかけるような声が、書いた字から聞こえてきたらいいと思っています。 デザインとして、文字が与えるイメージというものもあると思うのですが。 そうですね。モノクロームの世界なので、ハッキリと伝わる言葉を書こうと思えばいくらでも書けるし。それを大きな紙、大きな筆で黒々と書けば、否が応でも人は見ると思う。でも、それだと一瞬でビックリして終わってしまうような気がして。そうではなく、立ち止まってしばらくじっと見た上で、やっと伝わってくるようなものを作りたいなと。そのほうが、見た人の心に静かに鋭く響くのではないかなと思っています。 書こう、書きたいと思う字は、どう選ばれているのですか。 一番書きたい文字というのは、その時々の自分自身だろうと思っています。自分を映している言葉を持つ字ですね。最近であれば、狼という字を一番よく書きます。狼の象形文字は、野生の獣。そのことを知り、野犬が雨の中を歩いているようなイメージを抱きました。自分が今、雨の中を歩いている気分があったので、そこからずぶ濡れの狼のような「狼」という字を書こうと思いました。 華雪さんならではのスタイルというのは、あるのでしょうか? あくまでも楷書の形を基本にし、崩した字は書きません。楷書を繰り返したくさん書いていく中で、呼吸や体の動きで崩れることは良しとしますが、何か意図的にあえて崩すことはしないと決めています。 表現の選択肢がたくさんあるからこそ、その中で自分らしさが出るのでしょうね。 自分にルールを作ることだと思うんです。私がやろうとしている事は、自由になって好きに書けばいいというものではない。もっと自分を追いつめて、本当に自分が長く選び取りたいものを極めて、それに一番合う道具で、合う筆跡で書くということだと思うんです。そして自分で見付け出したものが、間違っているかいないかを常に自分に問い掛けていくことなのだと思っています。 |
これからの社会や若者に対して、華雪さんが書を通して与えられるものや、こんなことをしたら面白いかなと思うものはありますか? 私は今、定期的にワークショップを開催しています。最近の出来事を書き出し、連想ゲームのように、その中から自分に意味のある字を一つ選ぶ作業をしてもらいます。そうやって、自分の中にある字を選び出し、自分のイメージした形で書いてもらうと、「今、考えていることに整理がついた」などと言い、スッキリした顔で帰って行く方が多くて。自分自身と向き合って考えることで、自分の中で気になっていたことの答えが出てくるようです。 「華雪」って素敵なお名前ですが、本名じゃないですよね? 先生から頂いた名前がしっくり来ず、そう先生に伝えると、自分で考えなさいとおっしゃいました(笑)。先生に漢字辞典を貸してもらい、自分で色々と調べて決めた名前です。華雪とは、花吹雪という意味なんですよ。まさか、こんなに長く使うとは思っていませんでしたね。 最後に、華雪さんにとっての書とは? 日々暮らしている中で見たり聞いたりすることは全て、どんな字を書くかに繋がっていきます。だから、これから先もずっと字を書き続けていくことが、私にとっての書なのだろうと思います。距離がないんですね、自分自身と字を書いていることに。 |