e-SpiritPROFESSIONAL
藤原道山さん

尺八を始められるきっかけを教えてください。

始めたのは10歳の時です。たまたま祖母が琴を教えておりまして、環境的には和楽器の音のある環境でした。それと両親ともに音楽が好きでしたので、常に家の中には色々な音楽が流れていました。クラシックとかジャズとかロックとかポップスとか。

なぜ数ある楽器の中で尺八を始められたのですか?

これもたまたま祖父の友人から一緒にやってみないって言われて、それがきっかけでした。始めてみると、まずは音が出なくて…。それが非常に悔しくて、練習しているうちになんとか音が出て参りました。そうなって来ると、ドンドンのめりこんでいきました。

口の使い方が独特なんですかね。

口はもちろんのこと、指や首も総動員して音を作っていく楽器です。竹筒に指孔が5つという非常にシンプルなので、ポイントをつかむまでが大変ですね。

日本国宝の山本邦山さんに師事されたときいたのですが、どのようなことを教わったのですか?

技術的なことはもちろんですが、音楽的・感覚的な部分について多く影響を受けました。あまり細かくおっしゃって下さらないですよ。でもそれは、自らしっかりと吸収しようという気持ちを持ち、感じ取っていくことが大事だと教えてくださったのだと思いますね。

小学生の時、純邦楽ってどんな感じでした? あまり聴く人っていないですよね。

確かにそうですね。たまたま、私は祖母のところに行けばお琴や三味線の音を、また尺八も合奏しているのを聴き、父がクラシックやジャズだのロックだのを聴いておりましたので、そうそう、ビートルズやビリー・ジョエルとかの洋楽もよく聴いていました。あとピンクレディとか歌謡曲もあちこちで流れていましたから、自然と耳に入ってきましたよ。そんなこんなで全ての音楽が並列してありました。だからいい演奏はいい演奏だなと思っていましたし、音楽をジャンルに分けることはしませんでした。

本当に邦楽からジャズまで何でも演奏されて、古武道(※1)というユニットで活動されていますが、メンバーの方と出会ったきっかけをお聞かせください。

ピアノの妹尾武さんとは、千住明さんから「素敵なピアニストがいるから」と紹介してくださったのがきっかけです。初めてスタジオで出逢って音を聞いた瞬間、僕はその音色と音楽性に感激しまして、この人とコンサートやりたいなって思ってお願いしました。向こうも面白がってくれたみたいで、二人でよくコンサートをやっていたのですが、妹尾さんのクリスマスコンサートに大学時代の後輩だった古川展生さんが出演して、せっかくだから3人で演奏しようよ、ということになりました。 アンコールだけでしたけど、それがすごく面白かった!今度、三人でコンサートをしたいと思い、僕のコンサートに二人にゲストで来てもらいました。そんな形でお互いのコンサートに呼び合う形になって2年ぐらいやっていたと思います。


最初に面白いっていうのは、どう思われたんですか?

まず音色が合うなと思ったのと、あと音楽性が非常に合うなと思いましたね。音で会話している感じです。こうやってお話ししているのと一緒で、すごくフィーリングの合う方と、なかなか話が繋がらないって人がいるじゃないですか。彼らとはスムーズに音のやりとりができた。実はそういう出会いってなかなか出来ない。こういう時にこういう音色で、こういう感じできてくれると嬉しいなっていうのを、その2人はパッと想像以上のもので返してくれるのが凄く嬉しかったですね。

感じとってくれるような。

ええ。感じとってくれるし、こっちも何かきた時に答えたいと思える相手ですよね。だから非常にやっていても面白い。スリリングでもあるしエキサイティングでもありますね。

「古武道」というユニットを組まれている魅力はなんですか?

毎回、発見があります。やりとりもそうですけど、お互いに違うフィールドで活動していますので、お互いのものを持ち寄って、一つのものにしていくのですが、いろいろな表現であったりそのフィールド独自のものであったりするものが自分にとって新たな発見だったりします。向こうにとっては当たり前のことが、こっちにとってはすごく新鮮なことだったりするので、そういった発見が毎回毎回ありますね。それを今度、自分のフィールドに持ち帰ることができる。その両方のバランスがすごくできるなっていうのが今の状態だと思いますね。

これからはいろんな方々と。それも尺八をずっと通してやられていきたいってことなんですけど、具体的に10年後のビジョンがあったりしますか?

ビジョンというより、今やっていることが花開くのが10年後だなと思っています。今、ちょうど種を蒔く時期で、それが花開くまで10年くらいはかかるなって。常に今やっていることを大事にすることで、10年後に結果が出て来る。だから続けてないと駄目だと思っています。それを思ったのも、だいたい10年前ぐらいにやっていることが、今になって形になってきたなって思えるからです。

次の10年後に花開くってことは、どうなってると思われますか?

どうなっているでしょうね(笑い)。「古武道」もそうですが大事なのは人の縁だと思っています。それを大事にしていくことでいろいろと広がってきましたから。また僕自身、常々変わっていきたい、常に柔軟にいたい、毎回、新鮮な気持ちでいい音楽を作っていきたいという思いがあります。人の縁を介してもっともっと新たな挑戦をしていき、今想像ができないような展開が出来ているといいなと思っております。だから今、また勉強をし直さなきゃなって思っている時期です。いろいろなことに関して、もう一回、いろいろやり直したいなっていう思いがありますね。

音楽全般に興味があって、その時その時に出逢った方に影響を受けて、面白い作品を作っていくような。

音楽だけじゃなくて、全てのことが今、自分の血になり肉になっているのが分かりますね。特に昔習ったことが今、役に立っていることがすごくあります。さっき言った10年前のことが今、役に立っていて。10年前、20年前に習ったことでふとした時に、「あの時、先生が言ったのがこれだ!」ということがよくあります。経験を積んだからこそ分かってきたっていうのが、この年になって出てきましたね。それまでは「何言っているんだ、この人は」って思っていたことが、これなんだなって。もっと早く分かっていたら(笑い)。でも気づけて良かったなって思いますね。

藤原さんがいろんな方に影響を受けて、いろんなことを教わってこられたと思うんですけど、逆に聴いてる方々に音楽を通して伝えたいことは?

邦楽にまず先入観をとってもらいたいって思っています。入りづらい環境になっていると思うので、なるべく門戸を広げて入りやすい状況にしたい。自分自身も興味があるからこそやっていますけど、そういったものをどんどん聴いてもらうことによって、この楽器の可能性がすごく広がっていくと思っています。この楽器って、様々な可能性とアプローチができることをまず知ってもらいたいですね。そこからまた尺八本来の曲も聴いてもらいたいなって思います。この尺八が培われてきた曲も聴いてもらうことで、いろいろ幅が広がっていくと思うんです。一つのことに関しても一つの目線でしか見ないと平面にしか見えないものが、いろいろな角度から見る事で、段々、立体化していき、今まで見えなかったものが見えてくることをどんどん発見してもらいたい。聴いてる人に毎回、新たな発見をしてもらえればいいなと思っています。


※1 藤原山(尺八)妹尾 (ピアノ)、川展生(チェロ)の三人からなるユニット。純邦楽、ポップス、クラシックというそれぞれ異なるフィールドの第一線で活躍をしている三人が集い、ジャンルの垣根を取り払った創作活動・演奏活動を展開。それぞれのルーツを大切にしながら、新たな音楽の創造を目指す。




Profile

藤原道山 氏 <尺八奏者・作曲>
Dozan Fujiwara

10歳より尺八を始め、人間国宝 山本邦山に師事。東京芸術大学音楽学部邦楽科卒業、同大学院音楽研究科修了。在学中には、御前演奏を務める。2001年アルバム「UTA」でCDデビュー。以来、「空-k?-」<千住明プロデュース>、トラディショナルアルバム「壱」、「かざうた」<武部聡志プロデュース>、2007年5月には、ピアノ/妹尾武、チェロ/古川展生でのユニット『KOBUDO-古武道-』を結成、「KOBUDO」をリリース、計7枚の発表となる。並行して、様々な可能性を求め、坂本龍一、ケニー・G、野村萬斎などのアーティストとのコラボレート、舞台音楽を積極的に手掛けるなど、幅広く活動。松竹映画・山田洋次監督・木村拓哉主演『武士の一分』では、ゲスト・ミュージシャンとして音楽に参加。ウィーン・フィルメンバーによるスペシャルアンサンブルとも共演。

公式ホームページ http://www.dozan.jp/


このページのtopへ