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吉村和敏さん

吉村さんが写真をはじめたきっかけをお聞かせください。

きっかけは中学3年の時です。友達と家にあるコンパクトカメラを持ち出して写真を撮り合って、そのうち、どんどんカメラの魅力に入りこんでいきました。

高校に入学したら当然、写真クラブに入って。どんどんのめり込んでいって。

そのころはどのような写真を撮られていたのですか?

学校の回りの田園風景とか、花とか昆虫とか、週末には山登って自然撮ったりとか。つまり人里の風景ですよね。それが今に続いているんですけど。それを撮っていましたね。

ではその流れで、カメラマンになられたのですね。

いやその頃、カメラマンになろうとは決して思わなくて、多分、卒業したらサラリーマンになるだろうなと。

印刷会社で18から20歳までの2年ぐらいサラリーマンを続けていて、写真も撮らずにいろいろ。もう写真の事は忘れていましたね、その時は。結構、真面目なサラリーマン生活を送っていて、2年ぐらい経つと、なんか社会の仕組みが見えてきて。やっぱり人に使われるサラリーマンって仕事では、ちょっと面白みに欠けるかなって思い始めてきました。

自分に何があるかなって真剣に問い掛けてみた時に、写真があったんですよ。高校時代、あれ程好きだった写真家になってみようかなって思ったんですよね。働きながらは無理だから、仕事をキッパリと辞めて、何か撮りにいこう。何を撮るかって考えた時に、日本国内じゃなかった。
やっぱり海外に出て、自分なりの世界を見つけていこうって思いました。

貯金を全額下ろしてアパートも解約して、住民票も田舎に移して、体一つでカナダへ。

なんでカナダなのですか?

何を撮ろうかなと考えてみた時に、いろんな国を検討したんですけど、「森と湖の国カナダ」という一つのコピーに引っ掛かったりました。どこか故郷の信州の風景に似ているところがあるのかなと。

カナダに初めて行った時のことを具体的にお聞かせください。

中古のカメラをたくさん持っていて、バシバシ撮りながら旅をしました。

最初の20歳の時の一年間の旅は途中でお金が尽きて、向こうで農作業したりとかして、短期でお金を稼いで食いつないでいましたね。

帰国してからは、アルバイトをし、お金がたまればカナダにいって取材するというスタイルをずっと繰り返しました。カナダという一つの国にこだわってね。そしたら28歳くらいで、カメラで生計を立てられるようになってきました。

すごいですよね。

あの頃は常に苦しかったけど、その時に生み出してきた写真が今に響いてきてるんですよ。
今、それが一つの財産です。

吉村さんが写真を撮る上で、大切にされていることはなんですか?

すごく大事なのはテーマ性だと思います。
個展や写真集を作るって時にテーマがしっかりしているとすごくいいものができます。だから、テーマに関してはすごく考えますね。

吉村さんの作品の中でポイントというか、大事な要素は何なのですか?

うーん、『光』と『色』ですかね。
朝と夕方っていうのは光が斜めに傾いて、すごく魅力的な風景が現れるんですよ。光にしても色にしても。

その色彩美のすごさを昔から感じていて、必ず朝や夕方の時間帯は起き出して撮るようにしてました。

特に好きなのが朝なんですよね。夕方とは違った眩しい光の新鮮な……。たくさんの朝の写真を撮ってきましたね。

ある時、編集者がその写真を気に入って、本を作りましょうよってことで芽生えたのが「あさ/朝」というタイトルの作品集で谷川俊太郎さんの詩とコラボレーションの作品集でした。

吉村さんがカメラマンとしてこだわりをもっていることってなんですか?


風景を主体にしているカメラマンで一番大事なことっていうのは、常にフィールドにいるってことだと思います。そうすると光との出会えるチャンスが増えてきますからね、当然。

行動して現地に行って、何かを見つけてくるか。そうすれば自分の絵心と重なって、良い作品が生まれてきます。だから積極的に動いてます。必死になって。特にその時にやっているテーマをすごく意識しています。

例えば今だったら、12月にまた新しい写真集を出すんですけど、それはブルーモーメントっていう空が青く染まる時。夕暮れ時とかありますよね、真っ青に染まってる時。暗くなる前に。藍色。それをテーマにした写真集を出すんですけど、これを今、抱えてますからね。常にブルーモーメントのことばっかり意識してますよ(笑い)。空を見て今日撮ろうかなって。紅葉がテーマの時は紅葉ばっか気になって。

写真のことしか考えられないですよね。だから人生そのものなんでしょうね。

今後の挑戦したいことをお聞かせください。

一つ、今すごい抱えていることがあって、最近、写真20年続けてきて、日本の風景にすごく魅力を感じています。

去年の暮れから日本の風景をずっと撮影していて、暇さえあれば旅していろいろカメラを向けています。

日本って、これほど被写体のある国なんだって改めてビックリしているんです。

それは景色ということですか?

景色含めて。若い頃は決して見えなかった風景が、今になって見えてきてるんですよ。

つまり外国ばっか見てきた目ですよね。それを見てきた目で日本を改めて見返してみると、つまり外人ようになった目で日本の風景を見てみると被写体、すっごくあるんですよ。だからそれを僕なりに今、切り取ってますよ。それをいつか形にまとめたいですね。それが大きな目標ですね。

来年ぐらいから少しずつ、今年撮った形を発表していこうかなって思ってますけど。いつか大きな個展をやってみたいし、一般の作品集を作ってみたいし。やっぱり最終的には日本になるんでしょうね。自分が生まれた故郷の国。

海外撮ってきたからこそ被写体が多い。

被写体が多い。どんどん日本に傾いてるってのも、外国は確かに風景も美しいし、町や村も形になるんだけど、だんだんとひとつのパターンにはまってくるんです。

特に今、先進国。ドイツとかフランスとかアメリカとかね。カナダもそうですけど、先進国の街中にいるとトキメキが持続しないときがあります。

だから改めて日本を見てみるとね。すごく新鮮みがある(笑)。やっぱり日本人なのかなって思いますね。だからみんながあっというような形で日本をまとめていきたいですね。

全く違う切り口というか。

誰もやっていないもの。よく外人が日本を撮ると、すごい風景になるじゃないですか? 「エッ?」って感じ。あれをやりたいですね。日本人がビックリするような。それが今、大きい夢としてあるかな。





Profile 吉村和敏氏

1967年長野県松本市生まれ。
県立田川高等学校卒業。東京の印刷会社を経て、1年間のカナダ暮らしをきっかけに写真家としてデビューする。以後 20年間、自ら決めたテーマを追い求め、1年の半分をカナダやヨーロッパ各国のカントリーサイドで生活し、精力的に撮影活動を続けている。光や影を繊細に捉えた叙情的な作風は人気が高く、個展には日本全国から数多くのファンが足を運ぶ。近年は文章にも力を入れ、写真をさらに魅力あるものにすべく表現の幅を広げている。

■ 実績
2003年 カナダメディア賞大賞受賞
2007年 写真協会賞新人賞受賞

■ 著作物
『林檎の里の物語』(主婦と生活社)
『こわれない風景』『緑の島に吹く風』(光文社)
『SILENT NIGHT』(小学館)
『ローレンシャンの秋』(アップフロントブックス)
『あさ/朝』『ゆう/夕』(アリス館)
『郷愁の光』(ピエ・ブックス)
『草原につづく赤い道』(金の星社)
『光ふる郷』(幻冬舎)
『プリンス・エドワード島』(講談社)

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