e-SpiritPROFESSIONAL
山田香織さん

まず山田さんが盆栽家になられたきっかけをお聞かせください。

幼い時から、この仕事を継ぐのだと両親から刷り込まれていたのですが、 中学・高校の時は、友達に家業が「盆栽屋さんだよ」って言うのが恥ずかしくて、秘密にしていたぐらいでした。 大学も家業とは全く関係ない専攻でした。

ちなみに専攻は。

マーケティングでした(笑い)。

そんな変遷ですけれども、家業を継ぐきっかけになったのは18歳の時に、 父がフランスに一流旅行みたいなのに連れていってくれて。ちゃんとしたホテルで、飛行機もファーストクラスに乗せてくれたりとか。

素敵ですね。

一番ビックリしたのがマティスのお墓に行った時に、たむけられていた大きい花輪でした。

具体的にどういうところにビックリされたのですか?

ヨーロッパはリースの大きい花輪をあげるのですが、それがすごくセンスが良くて。 恐らく、その花輪はそのお墓の近辺なりの花屋さんが作られたと思うんですけど、 それを見た時にフランス人のセンスってこんな感じで行き届いているのだなって。

普通の移動マーケットなどを見てみても、花屋さんがバケツにドンドンドンと花を並べているのですが、 その並べ方も私じゃ考えられない色の隣に違う色があったりとか。そういうのにイチイチ感動していました。

その時に思ったことが、盆栽の家で生まれ育ってきているので、 引き算の考え方というか、『シンプルイズベスト』というものの考え方が染みこんでいるということ。

盆栽を見て育っているから、それについては何か染みこんでいるんじゃないかみたいな気付きが、 その時にあったのが最初の根っこです。

だからってすぐに継ごうとは思わなかったんですけど。でもマーケティングの勉強したのが大きかったかなと思いますね。

大学の時にすごく思ったのが、自分の家業を客観視する時間がいくらでもあるじゃないですか。 盆栽というものを改めて見た時に、おじいちゃんで高齢者の男性でってイメージが強くて、 すごく損をしている趣味の世界じゃないかなと思ったんですよ。 もっと楽しみ方とか、女性に向けたり若い人に向けたり。

もっと気軽に、カジュアルに楽しめる。

そうそう。盆栽をカジュアルに楽しめるナビゲーターがいないんだと思いました。

私はそれになりたいなって 。最終的には、ならなきゃもったいないっていう感じですかね。

マーケティング的な発想ですよね。ニッチじゃないですけど。


やっている人がいないだけなのじゃないかって(笑い)。 盆栽の中に楽しみがあるというのは見て知っているので、盆栽のきれいな瞬間とか、素敵に思える瞬間とかも知ってはいたので。 紅葉もきれいだし。季節感もあるしとか。

どのような切り口で盆栽をカジュアルに楽しめるものしたのですか?

小さい鉢の中にお庭のようなものを盆栽で作ろうと思いました。盆栽は本来1鉢で山の景色を表現しています。でも抽象的すぎるし難しいと思われてしまう。

じゃあどうしたら「素敵ね」「可愛いね」って言ってもらえるかなっていったら、小さいミニチュアの世界観みたいなのができあがっているほうが、そこに入り込みやすし、親しみやすいっていうか。

その方法だったら女性にもずっと愛好してもらえるんじゃないかなと。

ミニチュアの世界観って素敵ですね。

そのためには、鉢ももっと可愛いものがなきゃいけないとか。
デザイン性のある鉢があってもいいんじゃないかなとか、 三日月型の鉢を作ったり、そういうこともしています。周辺グッズも可愛いものとか素敵なものとか。

鉢の他に周辺ものってあるのですか?

例えばハサミもちょっと工夫して、女性でも「可愛い、このハサミ」って言ってもらえるような工夫をしています。

盆栽に関してのスタンスをお聞かせください。

私の場合、盆栽の技術は、一生勉強ってところがあるので、技術的な部分に関しては焦らず気長に構えようと最初に決めました。

具体的に技術は、どういうところが一番、難しいのですか?

そうですね。重厚な本当の盆栽になってきますと、一枝を作り込むのに10年や15年計画になります。

最初はたくさん枝数がある素材を、15年後どうするかをジーッと考えるわけです。ぼさぼさの木を前にして。

想像するんですよね。

この枝はいらない。残す枝はこれとこれ、その枝を更に作っていくっていう。 全部、頭の中でシミュレーションしないといけないので。まず想像力が一つ。

二つ目が、最小限しか残ってない枝を、どのように立派に作り込んでいけるか。

結局、35歳の人が45歳ぐらいにならないと成果が出ないじゃないですか。 でも35歳の時の技術って、恐らく45歳の自分からしたら当然、未熟なので、常にタイム差、 ラグが出ちゃうので、どうしても常に改作していくような形になっちゃうんです。

完成した時は、ある程度の年数がたっているってことですね。

相手も生き物なんで、自分の思うとおりに成長してくれないってことも当然、ありますし。 最小限に残していたのに枯れちゃったとか。

盆栽家お父様から一番影響が受けたことをお聞かせください。

父の言葉ですごい、いいなと思ったのが「焦らず急げ」って言葉があるんですけれども。

難しいですよね(笑い)。

「焦る」というのは何をやるにしても、木作りにしても、精神的に負けちゃっている状態。 「急ぐ」のは積極的に活動していて、とてもポジティブなんですね。

深いですね。

焦って木をいじると、ほんとに木は枯れてしまいます。無理な施術をしてしまうということなんですけど。
人間のエゴが強すぎると木は枯れちゃうんです。

木に対して、自分はこうしたいんだっていうのは、愛よりもエゴになっちゃうってことですね、多分。

木のエゴと人間のエゴのちょうど折り合ったところでやっているような仕事です。





Profile 山田香織 氏   盆栽家 彩花盆栽教室主宰

清香園4代目園主 山田登美男のもとに一人娘としてうまれ、幼い頃より跡取りとして盆栽に関する教育を受ける。
現在、盆栽や彩花盆栽をより多くの方に知っていただくためTV、ラジオ、雑誌、出版、講習会、CM出演など盆栽の伝道師として多方面で活躍中。わかりやすい解説と技法にも定評がある。

経歴

NHK文化センター さいたまアリーナ教室 講師
NHK教育テレビ「おしゃれ工房」「趣味の園芸」「趣味悠々」に出演。趣味悠々「山田香織のミニ盆栽でつくる小さな景色」では好評を得て、ますます盆栽の伝道師としての活動に力を入れている。


主婦の友社より監修書「はじめての盆栽グリーン」、
家の光協会出版局よりエッセイの入った「小さな盆栽のある暮らし」、NHK出版より
「山田香織の盆栽スタイル」、
毎日新聞社より「山田香織 定年からの簡単盆栽」、
主婦の友社より「山田香織の小さな盆栽づくり」がある。

このページのtopへ