e-SpiritPROFESSIONAL
ソムリエ ダニエル佐々木さん
ワイン選定の決め手は料理の味付け

ダニエルさんは実際ソムリエとしてどういう活動をされているんですか?

ソムリエは世間一般ではレストランで働いているイメージだと思うのですが、自分も含めて、 転職をして酒屋などでワイン選びのお手伝いの仕事もしている人もいます。そこで私はワインの管理・販売も含めて接客をしてます。

うちのお客様はだいたい観光客の方や地元の住民の方、そしてバーやレストランの業務店の方々が多いですね。 高級なワインもよく売れますが、気軽に楽しめる1,000円台から3000円台のものをお勧めする事が多いです。

前職の経験も活かしながら、ワインと料理の組み合わせを提案できたりと、そういった意味では今の職場は働き易いですね。

今は基本的にこちらのお店にいらっしゃるんですか?

はい。以前は海外のワイン生産者から直接ワインを買い付ける仕事もしてましたが、今は現場で色んなお客様を相手に接客していると、直接お客様の声が聞けるので、この現場での仕事が気に入ってます。

以前はどのようなレストランお勤めだったのですか?

父が以前、イタリアンレストランを経営していたことがあって、学生の時はそこで手伝いをしてました。

そのときは作るほうで?

作るほうとサービス両方。本格的にレストランに入ったのは卒業後で、 和食レストランに勤務していました。

和食とワインですか?組み合わせが面白いですね。

ええ。ワインとお料理の組み合わせとしては、洋食に限らず、エスニック料理、和食など、 合わせると美味しいワインはなにがあるかと相談されることも多いです。

うちのお客様は一般のお客様だけじゃなくて、お店を持たれている方とか、 立ち上げてワインを選定することを考えている方もいらっしゃいますので、 そういうお客様に対しては、コンシェルジュ(お客様相談役のような立場)として、さまざまな提案させていただいてます。

以前、タイ料理にあわせるワインを考えてほしいと相談されたことがありました。 タイ料理はパクチーといった香草を多く使う料理なので、それに合いそうなワインを何種類か用意して、 お店の人と一緒に実際に飲み比べながら提案をしたことがありました。10種類が採用されて今でもお使い頂いているワインがあります。

お料理に合うワインを考えるっていうのが、私は本当の基礎的な肉料理には赤ワイン、 魚料理には白ワインということしか、わからないんですけど、例えばパクチーにはこのワイン、 とか和食にはこのワインとか、どうやって選ぶんですか?

決め手はやっぱりその料理の味付けですよね。たとえば刺身には醤油が一般的ですが、 しょうゆは赤ワインが意外と相性が良いです。魚には白というイメージですが、醤油を付けて食べると意外と赤が合う場合もあります。

ついでに言うと、赤身の魚で脂ののったものですと白ワインよりもむしろ赤ワインと合わせやすい。

逆に白身魚を醤油ではなく、ポン酢のようなさっぱりと酸味のきいたタレで食べると、白ワインの方が合わせ易いとか、料理とワインの相性は、最終的には決め手となる味付けを基準に考えます。

色々な香りに敏感であるということ

自分で実際に飲んでみてパクチーとかも食べてみて、組み合わせとか考えるんですか?

いえ、ほとんど勘ですね。(笑)ただ、マリアージュ(料理とワインの相性)にはある程度原則がありますから、 白ワインや赤ワインも含めて、軽い料理には軽いワインを、重い料理には重いワインを、クセのある料理にはクセのあるワインを、 といった具合に想像してみてみます。

あとは料理の値段ですよね。それでカジュアルなものか、高級ワインを基準に選ぶか。 それらのことを総合的に応用して考えていくと、自ずとあわせるワインが絞られます。

もちろん、ここまでは知識で身に付けれますが、やっぱり普段から色々な料理の素材に関心を持ったり、 味わって香りも覚えないと、応用はしにくいのではないでしょうか。

やっぱりワインも複雑な香りから構成されている飲み物ですからね。

毎回一本づつ空けれるわけでもないですもんね。

そうですね。だからある特定の産地のワインだと、ある程度そこの特徴が出ているので、 知識があるだけでも、そのワインを空けるまでもなく、大まかには選定できてしまいます。

じゃあ味覚というより、左脳というか論理的なものなんですね。


そうですね、論理的でもあり、感覚の世界(右脳)も大事だと思います。

ソムリエの方って舌が命のようなイメージがあるんですけど、

はい。特に嗅覚を鍛えて、その香りを記憶しておくことですね。

そこを研ぎ澄ますために普段気をつけてることとかありますか?

普段から意識して、色々な香りに敏感でいよう。と、心掛けています。自分のまわりの些細な香りにでも、「ここ、なんか臭うね」と口にだして言ってみたり(笑)

いい意味でも悪い意味でも大変ですね。

ええ。結構、人の臭いや香水には敏感ですね。

電車乗ったりしたら大変ですね。

昔はよく香水売場で香水を嗅ぎ比べたりしてたので、知ってる香水を付けている人とすれ違うと、 「あ、この香水は!」と思っちゃいますね。小さい時から香りを嗅ぐのが好きというか、癖で、ありとあらゆるものをクンクンしてました。

じゃあ、自分の香水にもこだわりあったりするんですか?

プライベートでは季節に応じて香水を使い分けていますが、仕事の時はつけないですね。 食べ物やお酒を扱う接客業としてはつけないのが常識ですし。

ワインの良し悪しはコストパフォーマンス

1,000円のワインを買って、それが1,000円相当の味だったら、「まあ、こんなもんだな」って普通思いますよね。

逆に「この程度で1,000円もするの?」というのもあれば、「これは結構高いワインじゃないの?」って感じるものもある。 後者の場合、それは僕の中では「コストパフォーマンスがいい」と考えます。

無数にあるワインの中から、 コストパフォーマンスの高いワインを発掘して、お客様に紹介していきたい、と思いながら仕事してます。 それがプロとしては当然じゃないでしょうか。

ワインってすごくピンきりで、すごく高いワインもありますけど、やっぱり値段と味は比例していますか?

いや、必ずしも比例しないですね。すごく名前が通っているワインとか、 年間の生産本数が少ないものとか、全世界から人気がある高級ワイナリーのものとかはブランドの世界になっていきますね。

素人からしたら、特別な日には高いワインをとかそういう発想なので、 そういう日にアドバイスいただけるとうれしいですね。

はい、いつもそのように心がけています。

抑えめな値段でもいいものって、見極めつかないし。

そのために私達がいるので、大いに相談して下さい!(笑)

実際のところ、マスメディアの影響力も強いもので、このワインは素晴らしいものだといい続ける人がいれば、 それが高級ワインになってしまうこともザラにありますし、なにかのきっかけでそのワインが賞を獲得したり、 あるワインの評論家がこのワインはいいワインだと言ったことで、一気に値段が跳ね上がったりという事が、 結構当たり前のようにあります。

日本人というものはブランド志向が強いので、入手困難な高級ワインを手に入れた!! というのは、ステータスにもなりますね。

それはありますね。

ホストクラブで良く飲まれている、某有名シャンパンは世間一般でよく認知されていると思いますが、 あの値段を出して飲むなら、私はお客様には3000円台くらいのシャンパンをお薦めします!

おこがましいことですが、有名ブランドでなくても高コストパフォーマンスワインが存在しているんだ、 ということを世の中に啓蒙していきたい。当社のワイン仕入担当部門は非常に優秀なので、すごく助けられてます。

遺伝子としてしみこんでいる

実際に現地に色々いかれたりするんですか?

いえ、本当は凄く行きたいのです。ですが、輸入を専門にしている取引会社さんがいるので大半はそこから買ってます。

自分の夢は、現地に赴いて直接生産者と交流しながら隠れたワインを発掘する事です。日本に輸入されていないワインはまだまだたくさんあります。

語学が一通りできるので、 世界各国のワイン産地に赴いて、じかに生産者達と会って、 そのワイン造りのマインドに触れて、日本市場に紹介していくような仕事を将来はやっていきたいです。

ワインを発掘していく場所はどこをメインにしていく予定ですか?

フランスやイタリアがいいですね。スローライフにあこがれているもので(笑)


いつごろからソムリエになろうと思ったんですか?

実ははじめはソムリエになろうとは思ってなかったんですよ。 以外に思われるかも知れませんが、ワインも最初はあまり興味がなかったんです。 でも家庭では常に食卓にワインが置いてありましたね。

もうワインがあるのは当たり前な感覚ですね。

そうですね。小さい時は水で割って飲んでました(笑) でもこれってフランスの家庭では当たり前なんですよ。

常にテーブルワインが置いてある環境で育ったので、 成人してからは料理と一緒に試してみようとか、自然に思うようになって、 幼い頃からの生活習慣もありますが、遺伝子にしみこんでいるところがあるので、 特にワインについて勉強しようと思ってもなかったですね。 結局レストランに勤めるようになったのですが、 当時はまだ赤ワインと白ワインしか区別できない状態でした。それだとうまくお客様に伝えられなかったので、 もう少し上手く説明ができるようになればいいな、 と思うようになったのがきっかけですね。

それで働きながらスクールに通う事になったのですが、 当時は「ワインエキスパート」で十分だって考えてたんですよ。 レストランの勤務経験がなくても普通に試験をうければ、資格はだれでも取れます。 でも、どうせ取るなら、バッジの見た目もかっこいい「ソムリエ」がいいかなと思うようになりました。 そういう意味では、私もブランド志向ですね(笑)。

レストランに勤めているときに、もっとお客様に伝えられるようになりたいということでソムリエになられたと。

そうですね。レストランに勤めていた当初、お客様にお薦めは何って聞かれてもすぐには答えられず、 悔しい思いをしました。

いったんはまりだすと、物事掘り下げるタイプなので、こうなったらとことんまで極めてやろうと思いましたね。


忙しい毎日でしたけど、集中して3ヶ月で奇跡的に受かりました。

レベル的にはエキスパートの次がソムリエですか?

レベルはそれ程変わりませんが、世間のステータス的には、 ワインエキスパート→ワインアドバイザー→ソムリエの順だと思います。

ソムリエの試験を受けるには、私のようにレストランでの現場経験がある程度必要です。 アドバイザーは、飲食店以外のワインを扱う業界の人が、エキスパートは誰でも受験資格があります。

ワインのファンを増やすかということが第一の使命

最後に、ダニエルさんにとってのワインとはなんでしょうか?

ワイン好きの仲間達とよく一緒に飲みに行ったりなどしていますが、 私も当然その一員としてワインが大好きですが、ワインが大好きというだけではなくて、共通の趣味を持った仲間がどんどん増えていく、 そしてその仲間達が自分の人生に大きく関わっていくという、その輪の中での繋がりを実感する事が好きなんですよね、やっぱり。 まさに「類は友を呼ぶ」ということわざ通りです。

共通の趣味、 または仕事をされている方と接していて、ワインを深く知れるようになって本当に良かったなと思ってます。 そこからさらに人脈も広がりますし。中にはいわゆるワインマニアと呼ばれている人もいて、 私なんかよりはずっとワインの知識がありますけど(笑)

私はどちらかというと、ワインに興味を持ち始めた人に、カジュアルなワインをどうすればもっと美味しく飲めるのか、 また興味を持っていただけるか、つまり、ワインファンをいかに増やしていけるのか、ということを第一の使命にしています。

仕事以外でも、「こんな美味しいワインがあったよ」とか、「この料理と合わせて飲んでみて」とか、 普段は周りの人達にもよく話しています。

ワインの初心者に、そのワインの生産者、技術的な醸造法といったことを話しても、あまりピンとこないので、 もっと普段の生活に近い形で気楽に飲みながら、じわじわとワインの虜になっていただける人が増えていけば、 それは自分としては、使命を果たしていっている事になります。

お話聞いていて、料理に合うワインっていうのはすごく教えてほしいと思いました。

普段あまりワインを飲まない、飲めないという方でも、香りだけでもいいので、大きめのグラスに注いで、 くるくる回しながらクンクンしてみてください(笑)。食欲が増進されるだけでなく、会話も弾み、 その場が平和的なムードになっていきますから。ワインって生活の潤滑油だと思うのですよね。

最後に素敵な名言をいただきました!ありがとうございました!!


 



Profile 佐々木 健二(ダニエル)

1973年8月27日生まれ

経歴

'99年 関西学院大学 経済学部 卒業
'99年 南青山ラ・カンティネッラ(イタリアレストラン)勤務
'02年


'05年
(株)フードスコープ NYレストラン「MEGU」立上げプロジェクト
フリーランスのライターコメンテーターを経て、

(株)信濃屋食品 勤務
ジャパンワインチャレンジ 2005年 2006年 審査員として参加
現在ワイン専門店のソムリエとして、活躍中
■雑誌
『Hanako』
『UOMO』
『一個人』
■TV
『TV 所さんの目がテン!』
『さんまのあっぱれ大教授』

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